院内誌まほろば98号
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表紙
「本薬師寺跡のホテイアオイ」
ホテイアオイは水草の1種で、本薬師寺跡周囲にある1.4ヘクタールの水田に、ボランティアや近所の小学生が植えつけ、8月下旬~10月中旬ごろに一斉に花をつけます。
毎年7月初旬に約14,000株が植えつけられ、最盛期には約400,000株の美しい薄紫色の花が水田一面に広がります。花の咲く期間は長いものの、最盛期を見極めるのが意外と難しいと言われています。撮影 診療情報室 岡田 真一
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「内視鏡外科について」
外科医師 石岡 興平
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内視鏡外科は日本では1991年に腹腔鏡下胆嚢摘出術に端を発し、現在は胆嚢摘出術などの良性疾患にとどまらず、様々な癌腫において、腹腔鏡手術の割合が増加の一途を辿っています。その理由は、様々な手術術式において開腹手術に劣らない手術成績を得ていること、患者さんへの体への負担が少なく術後の回復が早いことなどが挙げられます。しかしながら、腹腔鏡手術は鉗子から伝わる触覚しかなく、2次元のモニターを見ながらの手術のため立体視が難しく、また動作制限を伴うことなどから、開腹手術に比べ技術を習得するのに時間や経験を要すると言われており、術者・施設間での技術の差が大きいと言われています。肝臓や膵臓のうち高難度の腹腔鏡手術においては施設碁準がありますが、それ以外の術式においては特に術者・施設制限はありません。これは全国的に腹腔鏡手術が普及するメリットともなっておりますが、一方で腹腔鏡手術の質を担保する必要性があります。日本内視鏡外科学会では、未編集の手術動画を元に、後進を指導するに足る所定の基準を満たした者を日本内視鏡外科学会技術認定取得者として認定しており、私は2020年に大腸領域で取得しました。大腸領域だけでなく、その他の疾患においても安全で高水準の腹腔鏡手術を患者さんに提供できる様に日々精進して参りますので、お力添えをいただければ幸甚です。
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「夏の疲れと漢方薬」
薬剤師 木根 燈子
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日傘を突き抜けるような強い日差しの日が続いたかと思えば、長引く雨により庭にキノコが生えたりと、昨今の夏は起伏が激しくなったように思えてなりません。過ごしにくい夏の季節、疲れが取れない、食欲がない、だるさが続くといったしんどさはありませんか?
このような夏の疲れの諸症状に対して、「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」という漢方薬が使われることがあります。この漢方薬はもともと、虚弱体質、手術後の胃腸の働きの低下、疲労感の顕著なこじれた風邪、低血圧に伴う脱力感といったものに使われている漢方薬です。
漢方医学では病気の原因からではなく、症状から治療を選択するという特徴があります。例えば夏の疲れなら、食欲不振に対し特徴的な香りや味により胃腸運動を亢進させる蒼朮・陳皮
・生姜などを、また疲労倦怠感には、滋養に富み、強壮作用がある黄耆・人参・当帰などを、という具合に適切な漢方薬を選び、それらを配合した補中益気湯が処方されます。
漢方において「中」は消化吸収に関わる消化管のことを指し、「気」は気持ちや生命力を意味します。補中益気湯は文字通り、「中を補って気を益す」、つまり低下した消化吸収機能を改善させ、元気をもたらす効能をもつ漢方薬なのです。元気を補う漢方薬の代表格であることから、「医王湯(イオウトウ)」なんて別名もあります。
夏の疲れは夏の期間だけではなく、少し遅れて初秋頃に現れることもあります。涼しくなってきたからと油断せず、時には漢方にも頼って、どうぞご自愛ください。
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「質の良い油を摂ろう!」
管理栄養士 寺本 陽美
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日本人の食事摂取基準(2020年版)では、「脂質異常症の重症化予防」という観点が新たに追加されました。「油は身体によくない」と思われるかもしれませんが、オリーブオイルを多く摂る地中海諸国の人々は、動脈硬化などの血管の病気が少ないと言われています。油には多くの種類があり、身体への影響もそれぞれ違います。
脂質(油)は大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2つに分けられます。肉類やバター、ラードなど動物性脂肪に多く含まれる飽和脂肪酸は、摂りすぎると悪玉コレステロールを増やし、心疾患のリスクを高めます。一方、植物油・魚油に含まれる不飽和脂肪酸(トランス脂肪酸を除く)には、動脈硬化や血栓を防ぎ、血圧を下げるほか、悪玉コレステロールを減らすなど身体に良い作用を持っています。オリーブオイルは酸化しにくく、炒めものなど、加熱調理におすすめです。アマニ油やエゴマ油は熱に弱いため、加熱調理には向いていませんが、独特な臭いも少なく、サラダやお味噌汁、ヨーグルトに直接かけると手軽に摂取することができます。身体に良い油とはいえ、エネルギーは9kcal/gであり、摂りすぎは肥満につながるので注意が必要です。
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生活不活発病予防「ひとは作業をすることで元気になれる」
リハビリテーション科
作業療法士 冨森 玲奈 -
生活不活発病という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?
「生活不活発病」とは生活が不活発(動かない)になったことが原因となり、体や頭の働きが低下する状態をいいます。現在、コロナ禍において日常生活が変化または縮小された方が多くいらっしゃいます。その結果、活動量が不足し体力が低下したり、知人との交流が減少し気分が落ち込んだりと心身機能の低下が予測されており厚生労働省からも注意喚起されています。その中で、健康を維持するポイントとして以下の5項目が重要と言われています①生活リズムを整える。②毎日できる役割活動を探す。③孤立しないように手紙や電話SNS等上手に利用する。④適度に体を動かす。⑤栄養(タンパク質)を摂る。この5項目うち②毎日出来る役割活動について作業療法士の視点から少しお話させて頂きます。役割活動と言えば家事を思い浮かべる人が多いと思いますが、実は家事は立派な運動になっています。国が推奨する1日の歩数は、65歳以上の男性で「7000歩」、65歳以上の女性で「6000歩」と言われています。10分間の家事を歩数に換算すると、料理・洗濯・皿洗い→600歩、ガーデニング・水やり→750歩、掃除機・大工仕事→1000歩程度、草むしり・階段を降りる→1100歩、階段を登る・苗木の植栽→1300歩、耕作→1400歩にもなります。例えば、一日の中で料理30分を朝晩2回で600×3×2(3600歩)、洗濯10分(600歩)、皿洗い10分を朝晩2回で600×2(1200歩)、草むしり10分(1100歩)で6500歩に換算され推奨歩数を達成していることになります。本来、人の生活は日常の身の回りの作業・家事などの生活を維持するための作業、仕事などの生産的作業、趣味などの余暇的作業、地域活動などの作業で成り立っています。それらが縮小される今、役割を持ち自分が毎日出来ることを続けて、生活不活発病を予防し健康の維持増進を図りましょう。ひとは作業をすることで元気になれます。