院内誌まほろば103号
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表紙
「素盞雄神社」
創祀は平安時代(971年)、御祭神は素盞雄命。牛頭天王社とも言われ長谷寺の守護神の一つ。
境内地には、樹齢800年を超える大銀杏の樹(奈良県文化財)と歌人藤原家隆郷が静居の証に、供養の為の藤原様式の十三重石塔がある。撮影 リハビリテーション科 武田 将直
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「ウロリフト」
泌尿器科 冨岡 厚志
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このたび泌尿器科では前立腺肥大症に伴う排尿障害の治療法として、経尿道的前立腺吊上術(ウロリフト)を導入しました。この治療は肥大化した前立腺組織を切除・蒸散する従来の治療法とは異なり、10~15分程度の短時間で専用のインプラント(通常4~6個)を用いて前立腺組織を吊り上げる事で尿道のスペースを広げる術式で、当院では現在のところ全身麻酔で2~3泊の入院で行っています。出血のリスクが少なく低侵襲性の治療で米国では2013年より導入され、30万人以上の男性が治療を受け長期効果が検証され、本国では2022年4月に経尿道的前立腺つり上げ術として保険収載されています。
お薬を内服中の方に関しては、服薬継続が不要となる可能性があり、今までの前立腺肥大症の手術と違い、性機能を温存できると期待されています。
合併症は排尿困難(34.3%)、肉眼的血尿(25.9%)、尿意切迫感(15.7%)、尿失禁(3.6%)、尿路感染症(2.9%)、結石付着(0.006%)などがあり、ほとんどは2~4週間で軽快します。
本治療はすべての前立腺肥大症の患者さんに適応になるわけではなく、著しく巨大な前立腺、または前立腺の膀胱内突出が顕著な場合、コントロール不良の糖尿病患者さん、担当医師が治療不適と判断した患者さんには別の治療法を提案します。
治療にご興味のある方は、泌尿器科外来へご来院のうえご相談ください。
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「前立腺肥大症と市販薬」
薬剤師 小林 佑至
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前立腺肥大症治療薬には、原因となる男性ホルモンの働きを抑える薬、排尿障害を緩和するための尿道の圧迫を抑える薬、膀胱の血流を改善する薬などを用います。
ただ、医薬品の中にはこれらと逆の作用を持っている薬もあり、それを使うと前立腺肥大症の症状が悪化するおそれがあります。特に注意が必要なのが抗コリン薬や抗ヒスタミン薬という分類の薬です。これらの成分は膀胱の収縮を抑制し排尿障害を引き起こす可能性があります。注意しなければならないのは、ドラッグストアなどで購入できる市販薬の中にも抗コリン薬や抗ヒスタミン薬が含まれているものがあります。例えば風邪薬として知られるパイロンPL顆粒には、鼻づまりを抑える成分として抗ヒスタミンのプロメタジンという成分が含まれています。また乗り物酔いの予防と緩和に用いられるトラベルミンには抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミンという成分が含まれています。また、睡眠改善薬として売られているドリエルにも抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミンが含まれています。これらの市販薬を服用すると症状が悪化するおそれがあるため服用することができません。そのため、ドラッグストアなどで販売している薬であっても前立腺肥大症の患者さんは正しく医薬品を選ぶ必要があります。
余談ではありますが、緑内障の一種である閉塞隅角緑内障の患者さんにもこれらの抗コリン薬や抗ヒスタミン薬を服用すると眼圧上昇などの症状が出る可能性があるので使えません。前立腺肥大症と閉塞隅角緑内障は遠く離れた疾患に見えますが、尿が出にくくなる前立腺肥大症と眼房水の排出が減少する閉塞隅角緑内障はともにあるべき場所から水分が排出しにくくなる疾患であり症状悪化を来す成分には多くの共通点があると言えるでしょう。
他にも多くの市販薬を含む医薬品には患者さんによっては服用が適さないものも多くあります。医薬品を選ぶ際は必ず説明書をよく読み分からなければ薬剤師に相談して頂くようにお願いします。
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「たんぱく質利用効率」
管理栄養士 清水 美里
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私たちの身体は約10万種類ものたんぱく質で構成されています。たんぱく質はアミノ酸が多数結合した高分子の化合物です。人の体たんぱく質を構成するアミノ酸は20種類あり、その種類や量、組み合わせによって性質や働きの異なるたんぱく質が作られています。
たんぱく質はあらゆる組織を構成する材料となりますが、どの組織のたんぱく質も分解と合成を繰り返しながら一定量を保っています。分解された体たんぱく質のアミノ酸は、食事由来のアミノ酸とともにアミノ酸プールに入り、新しいたんぱく質の合成に再利用されています。
繰り返し代謝されるたんぱく質の必要量はさまざまな条件に左右されます。例えばエネルギーを余分に摂取すると、体内で利用されるたんぱく質は節約されると言われています。すなわち、エネルギー摂取量が増すと体たんぱく質蓄積量は増加し必要量は減少します。逆にエネルギーが不足すると、体たんぱく質の利用が増加し、必要量も増加します。このようにたんぱく質の利用効率は、摂取エネルギーに大きく左右されます。
また適度な運動はたんぱく質の利用効率を高めてくれます。極端に身体活動量が少ない場合はたんぱく質の利用効率を低下させ、必要量増加に繋がります。
たんぱくが強化された食品は様々ありますが、効率よく体内で利用させるにはまずは十分なエネルギー摂取ができているかのチェックが必要です。
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「排尿ケアチームリハビリの関わり」
作業療法士 大塚 果林
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排尿ケアチームでは、排尿に困難さを抱えている患者さんに対し、下部尿路機能の評価や改善に向けて、医師、看護師、理学・作業療法士が協力して包括的排尿ケアを行っています。
今回その中で、尿閉に対しDIBキャップ使用で排尿自立に至った一例について、リハビリとして関わったところを紹介します。患者さんは、麻痺の後遺症で手指の細かい作業ができず、歩行には装具が必要でした。また臥床期間が長く全身性に廃用しており、介入当初は自力での歩行が困難な状態でした。自宅退院するためにはトイレ動作自立が必要です。
そのためリハビリでは、まず理学療法士がトイレまでの移動能力の獲得にむけ、起居や起立など基本動作能力の改善を行いました。立位バランスを改善するために下肢装具の見直しを行い、安定した歩行を獲得しました。作業療法士は排泄に伴う下衣操作やDIBキャップ操作の獲得に向け、ズボンの上げ下ろしや手指のピンチ力訓練を行いました。ナイトバルーンへの接続が硬く困難さが残るところには、キャップに装着するアタッチメントの提案をさせていただきました。
その後、病棟看護師と自己排尿の訓練を続け、無事に排尿自立して退院することができました。排尿ケアチームでは、様々なケースにこうした取り組みを行い、どうすればよりよい排泄方法が獲得できるかを一番に考えています。排泄に関してお困りの患者さんがおられましたら、一度、排尿ケアチームまでご相談ください。