院内誌まほろば100号
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「ヘリコバクター・ピロリ菌と胃炎・胃がんについて」
内視鏡センター長 上田 重彦
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ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)は胃の中に生息する細菌で、現在までの多くの研究でピロリ菌が慢性胃炎,胃潰瘍・十二指腸潰瘍や胃がんなどの原因となることがわかっています(上村ら. N.Engl.J. Med.2001; 345:784-9)。日本では2000年11月からピロリ菌陽性胃・十二指腸潰瘍に対して、2013年2月からピロリ菌感染性胃炎に対して除菌療法が保険適応となり、現在は実質的にほぼすべてのピロリ菌感染者に対して除菌療法が可能となりました。ただし、除菌療法を受けていただく条件として胃内視鏡検査が必須であり、健康診断などでピロリ菌が陽性であることが判明しても、それだけでは除菌療法はできません。これは診断時点で胃癌がないかどうかを確認しておく必要があるためです。また、ピロリ菌除菌に成功することで胃癌の発生確率は約三分の一に減少しますが、胃粘膜に生じた慢性胃炎の変化が正常化するわけではないため、胃癌の発生する危険性は完全にゼロにはなりません。従って、ピロリ菌除菌に成功しても定期的な(概ね一年に一度の)内視鏡検査が望まれます。また、ピロリ菌除菌療法の成功率は8割から9割程度であり、10割ではありません。さらにペニシリンアレルギーのある方には通常の除菌療法ができません。これら通常の除菌療法不成功例や、ペニシリンアレルギーのある方に対しては自費にはなりますが、三次除菌療法や、ペニシリンを使用しない薬剤の組み合わせで除菌療法を行うことも可能であります。除菌不成功となった方や、ペニシリンアレルギーのある方でピロリ菌が陽性と判定されている方は消化器内科を受診し、ご相談ください。
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「胃潰瘍の薬」
薬剤師 木根 燈子
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一口に胃薬と言っても、世の中には胃薬と名のつくものが何種類もあります。何がどう違うのか、困ることもあったのではないでしょうか。胃の病気の種類も、また、それらに対する治療薬も数多くありますが、今回は胃潰瘍に使われる薬についてお話しします。
そもそも胃は食物の消化のため胃酸を分泌しますが、胃も蛋白質なので当然そのままでは自らも消化されます。そうならないように胃は粘液を分泌して自らを守っています。この攻撃(胃酸)と防御(粘液)のバランスが何らかの原因で崩れたとき、胃潰瘍が発生します。崩れたバランスを戻す薬には、主に攻撃を抑えるタイプと、防御を強めるタイプの2種類あります。
まず攻撃を抑えるタイプには、H2ブロッカーやPPI(プロトンポンプ阻害薬)といった胃酸の分泌を減らすもの、制酸剤と呼ばれる胃酸を中和するものなどがあります。次に防御を強めるタイプには、胃の粘膜の損傷部に結合し保護層を形成するもの、粘液の分泌量や粘膜の血流を増やすものなどがあります。病態によっては2つのタイプを併用することもあります。
これらは市販薬にもあり、胃が不調の時に服用されたことがある方も多いのではないでしょうか。身近な薬ですが注意しなければならないこともあり、どのタイプの胃薬なのか知っておく必要があります。
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「胃の働きを助ける食べ物」
管理栄養士 辻󠄀本 牧子
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ストレスや加齢、不規則な生活など、様々な要因により胃の働きは低下します。
胃は伸縮性があり、空腹時には縮んでいても満腹時には大きく膨らみます。胃の蠕動運動によって、食べ物が胃液と混ざり消化されながら十二指腸へと送られていきます。しかし、胃の機能が低下すると、食べ物はうまく消化されず胃の中に長く留まった状態になります。胃が重く不快な感じがするのが胃もたれです。(慢性的な胃もたれは、ピロリ菌感染が原因のこともあります。)消化機能を助けるために、酵素を含んだ食品を食べるのもオススメです。
大根には、デンプンを分解するアミラーゼとたんぱく質を分解するプロテアーゼ、脂肪を分解するリパーゼが含まれます。すりおろして食べることで、大根の細胞膜が壊れるため、普通に食べるより多くの酵素を摂ることができます。大根おろしは、消化を助けるのに利にかなった食べ方です。
イモ類は、アミラーゼを含んでいます。焼き芋や干し芋が甘くておいしいのは、アミラーゼがデンプンを分解しているためです。
玉ねぎには、プロテアーゼが含まれます。すりおろした玉ねぎに肉をつけておくと軟らかくなるのはプロテアーゼのおかげです。
その他、アミラーゼが多い食品は、かぶ、ブロッコリー、生姜、酢など。プロテアーゼが多い食品は、キウイフルーツ、パイナップル、まいたけ、麹など。リパーゼが多い食品は、みそ、漬物、チーズ、アボカドなどです。
また、キャベツには、別名キャベジンというビタミンUが含まれており、胃の粘膜を修復するのに役立ちます。キャベジンは水溶性なので、生で食べるかスープにして汁ごと食べるのがよいでしょう。
唾液にもアミラーゼが含まれています。よく噛んでしっかり唾液を出して食べることも大切です。
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「便秘に対する体操・ストレッチ」
リハビリテーション科
理学療法士 常森 周一 -
便秘を解消する方法として、生活リズムの改善・適度な運動・マッサージ・水分摂取・食生活の改善・薬物療法・などがありますが、今回は運動(ストレッチ)とマッサージについてお話したいと思います。
マッサージについては、一般的にはお腹に「の」の字を表面を「撫でる」ように行われることが多いかと思いますが、実際には腸管はもっと深い位置にあるためある程度の圧を3秒程加えながら移動させていくことが良いといわれています。順序としては①仰向けに寝て両膝は立てておく。②右下→右上→左上→左下の時計回りの順に吐く息に合わせて、背中方向にまっすぐ押す。
その時、指を揃えて突き立てすぎないように気持ちいい程度の圧になるように注意する。③特に硬くて押しにくい場所に便が詰まっている可能性があるので、じっくりマッサージをします。右下の回盲部と左上の脾湾曲部には便が停滞しやすい場所と言われています。④3分程度を目安にお腹全体が柔らかくなったと感じればOKではないでしょうか。
次に運動についてです。ストレッチをすることで腸を刺激することができます。まず、上向きで寝た状態で両膝を立てます。そのまま左へ倒し体を捻ります。その時右の肩は浮かないようにします。そうすることで右側にある上行結腸のストレッチを行うことができます。両膝を右へ倒せば左側にある下結腸行結腸のストレッチも行うことができます。ストレッチを行ったままマッサージをすることも有効です。その他にも体幹を伸ばす、捻るなどの運動を行ってみてはいかがでしょうか。運動後は水分摂取を忘れずに。